2012年9月26日水曜日

moe and ghosts.幽霊たち.レビュー

界のリズムと少しだけ隔絶してしまった思春期のあの気分は、たとえば夕陽の美しさに涙する安易な気分。に、とても似ていて、しかし大人になるとたったその数秒でしか世界と離れられないのは、こわい。たぶん、今後すばらしい芸術は福島から生まれることでしょう。世界とのいとおしいまでの断絶、それはこじらせてしまえばメンヘラ。とか痛いコ。とか中二病。とかそれ自体甘い甘い言葉でやっつけられてしまいます。でも、サリンジャーだってその部屋に未発表の作品が何千、ヘンリー・ダーガーを挙げるのは卑怯かもしれないけれど、いわんや宮澤賢治をや。近代になればなるほど、断絶の甘い効能は増してゆきます。

 とはいえ、世界とつながりたくもあるわたしは、おととい新大久保へ友人喜田原(仮名)と食事に行ってきました。
駅のホームに降り立った瞬間からただよってくる肉の焼けるにおい。
空腹だったことと、そして先週は極東全域がこのにおいの予感に満ちていたことが引き鉄となり、思わず陶然とよろめいて、「ああ、なんてこった、この街は年がら年中このにおいをまとっているのか。たっまんない。まさにalter war。人間と肉の代理戦争。いや、戦争はいつだって肉と肉との闘いで、それ以上だったことなど一度もないか。ふふふ。」などとtwitterでなくはっきり独り言としてつぶやいて、R・リー・アーメイ演じるハートマン一等軍曹に知られたらぶん殴られてサーイエッサー!と言わされるに決まっている妄想をとめることが出来ないでいました。

 つながりたい。アイワナビーウィズユー。官能的にせよ暴力的にせよプラトニックにせよ。ポルノや戦争映画を見るだけでは満足できないわたしたちは、つながれないさびしさや痛みを快感に変えることでなんとかバランスを保っている。でも、ときにはどうしようもない気持ちが暴走する。それがきっと死んだ後に幽霊となるんでしょう。


moe and ghosts 『幽霊たち』

紙ジャケ。歌詞カードなし。
「さよならだ、うつくしきひびよ」「生きること自体、腹八分におさめた・・・」「頭ががんがんいたいよおいたいよおいたいよお・・・」 こうしてリリックを羅列していくだけで、精神が、あのときのように剥き出しになっていくのをはっきり感じ、感じながらでもこれは間違いなくヒップホップ。それ以上でも以下でもなく勿論『勝訴ストリップ』ではない。◆言葉をあふれさせる少女の(と形容するしかない、しかし同時にはっきりもう少女ではない美しい)声は、リリックによってほとんどドラムのように強く胸をたたく。そこに重なる本当の打ち込みの低音。さらに重なる甘い感傷的な音のコラージュ。に、ミルフィーユをいちまいいちまい剥がしたりまたのっけたりしながら踊りくるう白いワンピースを想像する。

「革命は夜に訪れる」――幽霊たち、というタイトルにブレなく、とらえがたい言葉に、イヤホンをはずしても残るメロディの残響に、そしてなにより世界とつながろうかそれともやめようかという痛々しいほど透明な声に、ゆさぶられる。間違いなく今年最高のヒップホップの一枚。

moe and ghosts
幽霊たち

UNKNOWNMIX / HEADZ 167
定価 ¥2,100 [税抜き価格 ¥2,000]
2012年8月15日 [水] 発売

公式サイト

All lyrics by 萌
All tracks written, recorded & mixed by ユージーン・カイム
Except for track 09: traditional English song
Saxophone by 植野隆司(テニスコーツ)
Recorded by 安藤誠英
Mastered by 西村尚美/INNER SCIENCE
Design & photo: 近藤一弥




***

 新大久保で食べた美味しい焼肉の話は今度にとっておくこととして、友人喜田原の元気そうな顔。きれいに染められた髪。それだけで、世界はすばらしい。だいきらいな雨がだいすきな煙草を湿らせていても。たぶんわたしは幽霊になれまい。いやそもそも、twitterやFacebookに占領された世界で幽霊人口は少子高齢化の一途をたどるしかないであろう。そして靖国の亡霊、お岩さん、涙を流す市松人形、彼らがケータイをいじり始める日も遠くないであろう。きっと孫さんは歓迎してくれるぜ。ははは。味気ない世界最高。


BGM 
Eskmo - I Just Want(ダブステップはやっぱクール)
②moe and ghosts - GINGA(ヤバイ。椎名林檎を初めて聞いたときの気持ち)

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